一期一会

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 剛は路地裏を引き摺られるように事務所へ連行された。そこは、陽も遮る薄暗い部屋だった。真昼に映画館に飛び込んだようにおぼろげであったが、次第に白い椅子やテーブルや大量の雑誌が浮かび上がり、その奥に責任者と思わしき男性が息を潜めて剛を待ち構えていた。 『彼が声を掛けた理由に思い当たる節は…・…』 『当然ありますよね!』と、 その男性は丁重な口調の中にも、剛に底知れぬ威圧感を与えた。大男の風貌とは対照的に、端正な顔立ちの中で凍てつく眼光と途轍もない凄みが、剛を恐怖の世界に引き込んだ。剛に返す言葉はなかった。ここに連れて来られた理由すら理解していないのが事実であった。  その男性は、キャビネットから分厚い書籍を取り出し、 『パチンコ店には、警察が管轄する遵守事項があります』 『風営法の23条に、「パチンコ店は、遊技客に貸出する玉・メダルを店外に持ち出させてはならない」 又、54条に、「これに違反した罰則として、パチンコ店に五十万円以下の罰金を科す」と、記載されています』 『即ち! 君の行為を見逃すと、我々が罰せられるのです!』と、 理路整然と剛の隠密行動の違法性を説明した。更に、 『一日三回、チュリップを開けているのは、その玉を元手に少しでも長く遊んで頂けるように配慮した当店独自のサービスです』 『あなただけですよ! パチンコ玉をこっそり持ち帰り、翌日、その玉でチューリップを閉め、終わるとさっさと両替に走るのは!』
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