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『現場は、従業員が足りていますか?』
『早番が一名足りないですね』
『そうですか…・…』
『そうだ! この案はどうでしょう?』
『…・…・…・』
『成程! 好都合ですね!』と、
二人の独断と偏見に満ちた言い草が、剛の切迫感に拍車を掛けた。そして、
『顔を上げて下さい。君が悔いを改めて、私の交換条件に従うなら、今回は内々で処理をしましょう。如何ですか!』
『異を唱えるなら、その時は、覚悟をして下さい!』と、
怒声が窓ガラスを震わせ、薄暗い事務所に彼の冷たい視線だけが白く光った。剛にはその男の交換条件が、助け舟なのか、それとも、蟻地獄の入口かは不明であったが、
「一刻も早くここから逃げたい!」
「警察沙汰は御免だ!」と、未知の恐怖に足が竦み、
『内々で………』
『よろしくお願いします』と、
か細い声が無意識の内に口から漏れた。歯を食いしばると湛えていた涙が頬を伝ったが、男性の言葉に従うことは、崖っぷちに立たされた者に許されたたった一つの生き残り策であった。剛は胸に刻んだ。
「この世は電光石火のように儚く消えるかりそめの世界だ!」と。
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