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阿鼻地獄から解放された剛は、四条大通りを人混みに流されるように流離っていた。にこやかな表情の観光客や、寄り添って腕を絡めるカップルに嫉妬に似た理不尽な激しい険悪を抱いた。秋晴れの広大なキャンパスでは勉学に勤しむ青白き秀才の論争や、合唱部の可憐な乙女達のハーモニーに虫唾が走った。世間様との境遇の違いを改めて身をもって知った剛は、心の地底にあった嫉妬が噴火した。
「同年代なのに、彼らとの違いはなんだ!」
「これからどうなるのだ!」
「何故だ! 何故、パチンコ店で働くことに!」
「ちきしょう!」
「やってられるか!」と、
恨み節が連綿のように続いた。無性に流れ落ちる涙を拭いながら木陰に隠れたが、そこにも女子大生の人垣があり、剛の心を冷え冷えとさせる嘲笑から逃げる事さえ許されなかった。
パチンコ店での強制的労働が明日に迫った深夜、残暑の寝苦しさと心細さが胸の底から湧き上がり、汗だくになって幾度となく目を覚ました。そして、朝方だろうか、夢魔に魘された結末は、以外にも不思議な光景だった。
「素敵な青春を歩んで下さい。負けないで下さい!」
「素晴らしい経験を積んで下さい!」と、
凛とした声と共に、男らしく頼もしいスーツ姿のあの男性が剛の夢枕に立っていた。
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