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剛は、小雨の降りしきる農道をJR守山駅に急いだ。途中、小学生が校庭でサッカーの試合で躍動する姿が目に飛びこんだ。何処かしら懐かしく感じたが、反面、彼等の無邪気な笑顔が羨まして仕方なかった。
「できればあの頃に戻りたい。もっと、頑張ったのに…」
「もっと、練習を… 勉強も…」
「何故だ… つらい…・…」
「俺が悪いのか!」
「サッカー部の顧問を信じた俺がバカだったのか!」と、
剛は被害妄想という呪縛に捕われていた。
乗り慣れた車両は土曜日の所為だろうが普段より混み合っていた。小鳥のさえずりのような女子高生のおしゃべりやサラリーマンの知的でスピード感のある会話さえも、今日の剛には耳障りで焼くような嫉妬が胸に深く粘着した。そう言えば、ここ数日間、誰とも会話をしていない現実を思い知らされた。
約束の三十分前にパチンコ店の前に到着した剛は、何気なしに三カ月間悪事を繰り返していたホールを覗き込んだ。土曜日の影響か繁華街の強みだろうか、剛の見慣れた朝の閑散としたホールとは雲泥の差があり、来店客が我先にと空台の争奪戦を演じていた。剛は、この機に及んでもまだ、
「こんな繁盛店なら、儲けも半端じゃないだろう!」
「俺一人の悪ふざけなど見逃がしても大きな影響はないだろう! 大目にみよろ!」と、
未練がましい嘆息を漏らしていた。
事務所に中村もあの大男もいなかった。中年の事務員の女性が探るように目をぎょろつかせ、
『話は聞いているから… 若いのに大変だね』と、
彼女の奇妙な薄笑いと錆びた声が、剛に底知れない胸騒ぎを与えた。
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