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『この紙袋に制服が入っているからサイズが合うのに着替えて… 後は、矢吹主任の指示に従ってね。長続きすればいいけどね…・…』と、
意味深な言葉を吐きすて、傲慢な態度で紙袋を手渡した。その中にはナフタリンの臭いが沁み込んだ派手なワイシャツと蝶ネクタイが押し込まれていたが、剛はその鼻を突き抜ける異臭に鳥肌が立った。
「これが制服? 珍ドン屋だろう!」
「情けない…・…」と、
姿見に映る風刺的な姿に嫌気が刺した。誰にもこんな無様な姿は見られたくなかった。サッカー部の先輩後輩にも、大学の同級生にも、況してや母親には絶対見せたくなかった。鏡の向こうの物体が別人であって欲しいと切に願った。剛は頭を大きく振った。更に、右手を何回も上げたが、間違いなく鏡の向こうに写る人物は剛以外の誰でもなかった。
時間だけは剛の心情と裏腹に動いた。着替えを終え、ホールに向かったそこには、欲望の赴くままに右往左往する客の暴挙と身の危険を感じる閉鎖社会が手薬煉いて待っていた。剛は人盛りを避けながら景品カウンター横の白髪頭の小柄な男性に近づいた。そして、
『矢吹主任ですか? 今日からお世話に成ります彦坂です。宜しくお願いします』と、
けたたましい騒音の中、声を張り上げながら頭を下げた。聞こえているのか聞こえていないのか、おそらく聞こえているだろうが、彼は無表情でタバコを銜え、意図的に威圧的な沈黙を演出していた。そして、数分後、
『ついてきな!』と、
独断的に言葉を吐き捨てた。そのアクセントには人を小馬鹿にした敵愾心が見え見えだった。駐車場とトイレの清掃、更にタ
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