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『来週も待っていますよ』と、
彼は無言の暗示を与えるかのように剛の肩にそっと触れ、
『じゃ! 気をつけて帰って下さい』と、
爽やかな物言いで喉を振るわせるながら足早に事務所に向かった。風のように現われ、心地よい調べを与えた男性の自信に満ち溢れた背中は、剛の二日間の精神的ショックと肉体的疲労を若干ではあるが解きほぐした。その背の高い後姿の遙か彼方に、奇しくも朝の自然の猛威は影を潜めて、西の空に大きな二重の虹が綺麗に放物線を描いていた。
剛は改めて学生手帳を見た。そこには、パチンコ店アルバイト、〈土曜日=午後一時から十時迄 日曜日=午前九時から午後六時迄〉と、弱々しい文字列が並んでいた。これが、彼が計略した交換条件だった。
そして、一際大きな文字で、
―店長・中村 勇 ― と、その男の名前が記載されていた。
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