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『今日の不始末は、総て当店の不注意による結果です。店長の私の責任です。申し訳御座いませんでした』
『本人には、私から注意します!』と、
冷静沈着な物言いで頭を下げた。そして、茶封筒に若干のクリーニング代を用意し、一人一人に毅然と手渡した。リーダー各の一人が、
『店長の顔を立て、今日は帰ってやるよ!』
『行くぞ!』と、
勝ち誇ったような薄笑いを浮かべた。更に、一派の肩割れの輩が、
『気をつけろよ! 若造!』
『しっかり仕事せいよ!』
『店長に心配を掛けるなよ!』と、
剛に鋭くガンを飛ばし、凄まじい勢いで椅子を蹴り倒した。
剛と中村は駐車場と公道の境界線で不埒者を見送った。だが寸刻の後、中村は人が変わったかのように、
『よし!』と、
彼等の後を肩を怒らせて足早に追いかけた。かなり離れた場所で何が起きているのか、何を言い争っているのか皆目見当もつかなかったが、恐ろしく真剣な中村の面差しだけが鮮明に浮かび上がった。明白過ぎる事実は、その後、奴らの顔を一度もホールで見掛けなかったという事だった。
晴々とした表情に戻った中村は、一呼吸置き、
『彦坂君! ちょっといいですか? 』と、
駐車場に聳える一本の杉の木に向かって歩き始めた。剛は目に見えない糸に引かれているかのように静かにその背中を追った。
『彦坂君! 私は辛い時や悩んでいる時、いつもここに来ています。私の愚痴を聞いてくれる唯一の友達です。木は何も答えてくれませんが…・不思議と気持が落ち着きます。』
『何故か…・… 明日から、又頑張ろうと言う気持ちにしてくれます!』
『私にとっては癒しの場所です』と、
立ち止った中村は寛いだ声で言った。そして、大きく深呼吸を繰り返し、
『彦坂君には彦坂君なりの言い分もあるでしょうが、今日の不始末は、彦坂君の不注意が原因です。残念ですが…・…』
『ただ、奴等は新しい店員を見つけては難癖をつける機会を狙っているのも事実です! 今回で三回目です!』
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