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「田村、ちょっと待ってて」
そう言って、俺は車から降りて麻耶ちゃんに駆け寄った。
彼女の視線を辿って振り返って見たら、タイミング悪く田村は俺のジャケットを畳んでて、彼女だと勘違いされてそうな気がする。
田村は親しい仕事仲間だけど、違うんだよ!そういうのじゃないんだって!!……と、心の中でジタバタしてるけど、そんな格好悪い自分を麻耶ちゃんの前では出せるはずもなく、いつも通りを気取ってみる。
「あ、あの……神谷さん今日お誕生日って……カルテに書いてあったので」
横を通る車の音に、今にも掻き消されそうな小さな声。
「えっ……」
「これ、良かったら受け取ってください!」
麻耶ちゃんが背中に隠していたらしい、綺麗な黒い袋を渡された。
「貰ってくださるだけでいいんです。ごめんなさい」
……半ば強引にそれを渡した彼女は、俺の気持ちを完全に掴んだ。
涙が溢れそうな、麻耶ちゃんの瞳と一瞬視線がぶつかって、すぐに逸らされてしまった。
「あ、ありがと……あ、あのっ!」
ちゃんとお礼を言わせてもらう間もなく、彼女は歯科へ走って戻っていった。
ごめんなさいって……まだ告白してもないのに振られた気分だ。
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