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一定の速度で、エレベーターが上がっていく。早く着いてくれないかと、バッグを持つ手に力が入った。
「どこに行ってたの?」
「街へ企画のアイディアを探しに……」
「そうか」
沈黙を破ったのは、到着を知らせるアナウンス。
「着いたよ、30階」
「失礼します」
ここまで止まることなく着いたから、途中から乗ってくる人もいなかった。息を止めていたような感覚から、一気に解放される。
「高梨さん」
「はい?」
振り返ったら、部長がエレベーターのドアを開けたままでいる。
「今朝みたいな顔、しないで」
意味が分からなくて、部長を見つめたまま止まってしまう。
「………………」
フロアの廊下を歩いてくる男性の声が大きくて、部長が何かを言っているけれど、私の耳には届かない。
そして、微笑んだ部長はエレベーターの扉の向こうに消えてしまった。
どうして部長といるだけで、こんなに気持ちが忙しくなるんだろう。
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