138人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
十字に切られた窓から洩れる、アンバーの照明がデッキに黒い十字架の影を作っている。
「本当、いいアイディアだよな」
「そうだね。中にいるときは、テラスがあるの分からないし」
神谷さんと誠さんが、十字架を眺めながら交互に話す。
「ところで、まだ開放しないの?」
部長が、煙草に火を点ける。
「テラスのドアを開けるのは、言ってくれた時だけ」
「なんか勿体ないな。他に知ってる人なんて相当限られてるだろ?」
部長と神谷さんの紫煙が海へ流れていく。
「私、特別な気分です」
「特別?」
誠さんが、オリーブを摘まみながら言う。
「なんだかご褒美もらった感じがします。この十字架も、ここに来ないと見れないから」
私は、足元にある十字架の影にグラスを置いてみた。
「そう、この感じ!!」
「ん?なにが?」
誠さんがグラスを持ったまま、神谷さんに問いかける。
「俺が高梨さんを選んだ理由は、その感じなんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!