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戻ってきた部長はペットボトルに入った水と、モヒートを持ってきてくれた。
「無理して飲まなくていいけど、飲みたくなったら口直しにでも。キスールは、もう温いから美味しくないかもしれないし」
部長は目を瞑って、再びゆっくりとグラスを傾けている。絵になるとはこのことだ。綺麗という言葉しか浮かばない光景に、呼吸を忘れるほど見入ってしまう。
「そんなに見られたら、めちゃくちゃ飲みにくいんだけど」
飲んだ後のグラスの縁を唇に当てたまま、薄く開けた片目だけで私を見る。
「その、カクテル強いですか?」
見ていたことを隠したくて、咄嗟に無意識に、言葉が口を突く。
「ミントジュレップっていうんだ。ウイスキーとミントと少し砂糖……強いけど飲んでみる?」
グラスの中で氷が涼しげに踊るのを見届けて、私は頷いた。
口にカクテルを含んだ部長の視線が、どんどん近くなってくる。
手探りで掴んだテーブルのモヒートを、慌てて顔の前に持ってきてしまうのは、部長の表情がとても妖艶で、キスを思わせたからだ。
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