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「どうして?」 「困ります。だってあくまでも上司と部下ですから」 部長が少し嬉しそうに微笑んだように見えた。 「ふぅーん、困るんだ。ねぇ、彩星?」 部長が隣に立ち、甘く低い声で名前を口にする。 「今日の唇は、嘘つきの色だね」 そんなの、なんて返したらいいか分からない。私だってさっき塗り直した時に気付いたんだから。 「で、今朝のことだけど」 「何のこと、ですか?」 「……忘れたのか?」 忘れられるわけがない。部長を引き留めたのは、私だ。まさかあんな展開になるとは思いもしなかったけれど。 「忘れました」 「……嘘つき」 あっという間に手を引かれて、部長の甘い香りと体温に包まれていく。
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