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腕の中から私を解放すると、部長はテラスの柵に寄りかかり、紫煙の行く先を見つめている。
それは初めて会った日と同じような、冷たさを感じる表情だ。
「あの……」
「なに?」
溜め息混じりの甘い声は、ちょっと面倒そうにも聞こえた。さっきまでの甘ったるい空気は、既に過去のものになっているらしい。
視線まで冷たく刺さるように感じるのは、私がまだ酔っているから?
「中にいる人たちに、見られてましたよね?」
「気になるの?」
「もちろん気になります」
「あ、そう」
煙草を深く吸って、空を見上げている表情は、ほんの少し得意気に笑っているようにも見える。
不意に、部長が外したネクタイがシャツに擦れて、魚のように風に泳ぐ。
「悪いけど、持っててくれる?」
「はい?」
「俺の荷物は受付に預けたから。彩星のバッグに入るなら、持っててくれる?」
ネイビーとグレー、ピンクゴールドのラインが入った、レジメンタル柄が手の上で重なりあった。
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