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2ヵ月振りにデートした夏休みのある日、待ち合わせ場所に来た冬也は、知らない人みたいだった。 スーツを着こなして、車に寄りかかって待つ姿は大人の冬也はカッコよくて……ほんのり香るウッディは、私の知らない香りだった。 最近は仕事が忙しいとか、上司が厳しいけど頑張ってるとか、冬也が話してくれる近況は、普段メールで話していたことと大して変わらなかったけど、会えただけで嬉しい私は、ひたすら話を聞くばかり。 「大変だね、頑張ってね」 それしか言えなかった。 ただ、メールで近況報告をされるよりも寂しくないだけ。言葉に温もりと色を感じるだけ。 だけど、それでも良かった。 来年になれば、私も社会人になるし、きっと見えない距離みたいなものは無くなって、仕事の愚痴や悩みも話せるようになるって思っていた。 それまでは、会えなくても声が聞けなくても、メールが少なくても我慢しようって決めていたんだ。
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