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「俺、もう寂しさを埋めてやることは出来ない」
「………聞こえない」
少しも望んではいない雰囲気に戸惑って、耳を塞いだ。これ以上は聞いちゃダメって、そう思ったから。
「ごめんな。来月転勤になったんだ。だから、もっともっと会えなくなる」
愛おしい、ずっと聞きたかった甘く切ない声だからこそ、こんな時でもすんなりと身体中に響いていく。
止まらない涙は、顔をあげて視界に入ったはずの冬也を滲ませた。
「そんなの……私が会いに行くもん……」
そっと涙を掬ってくれる指を、私はギュッと捕まえた。
「転勤先、フランスなんだ。だから、ね?もう終わりにしよう?」
嫌だ。ずっと一緒に居たいよ。どうして別れなきゃいけないの?
終わりを告げるみたいに今までのことが、嫌でもコマ送りで脳裏を掠めていく。
身体中がズキズキする。心が痛いほどに締めつけられていく。
やっと叶ったこの恋を、まだ終わりにしたくない。
「……好きなのに」
声を詰まらせて訴えた私。
少し首を振って、ダメだと諭し、困ったような笑顔をする冬也。
「彩星、俺のこと好きでいてくれてありがとう。だけど嫌いになっていいんだよ」
彼は、涙で濡れた私の唇に、最後のキスを落とした。
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