第1話

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   ワタシは誰?  俺は橋本 敬太、三十五才だ。  どこにでもいる、くたびれたオッサンだ。  間違っても陛下なんて呼ばれるような、ご大層な肩書きは持っていない。 「おかしい……」  見慣れない室内を見回しながら、一人言ちた。  すると何故か、めっちゃええ声が出る。  鈴を転がしたようなと言った表現が似合う、透き通った声だった。  なに今の?!  ぎょっと目を剥いて、口許を手で覆った。  すると今度は、その手の形に目を剥くはめになる。 「小さい……だと?!」  またええ声が出た。  視界に映った自分の手を凝視しながら、わなわなと震え出す。  なにこのピアニストみたいな長い指。  なにこの驚きの白さ。  しかも箸よりも重い物を持った事がなさそうな、繊細な指だ。  そしてそこには桜貝のような、ピンクの爪が行儀良く並んでいる。  なにげに掌の皮もうすい。 「陛下……?」  俺がじっと自分の手を見つめていると、先程の儚い系イケメンが声をかけて来る。  不審感を露に、眉を顰めながら胡乱な目で俺を眺めていた。  何か、おかしい。  状況もおかしいが、俺もおかしい。  俺はばっと、体ごとイケメンを振り返る。 「鏡貸して!」  そして鏡を要求した。 「鏡……ですか?」  イケメンは 「こいつ頭大丈夫か?」 みたいなドン引き八割、警戒三割。  不審感四割な顔をしながらも、俺の手を取って立たせてくれる。  ちょっと割合の配分がおかしい気もするが、今は全てがおかしいのでそこはあえてスルーする。  そしてドーナツテーブルのある会議場みたいな部屋を後にすると、イケメンは控室のような小部屋に俺を案内した。  壁に大きな緞帳が吊り下げられていて、その中心に等身大の姿見がある。  縁にドラゴンが身をくねらせた装飾のある、荘厳な感じの姿見だ。  ここでもまたドラゴンか。  どんだけドラゴン好きなんだ。
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