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「デートの約束をしてくれない限り、帰さない。これは絶対命令だから」
ドアから、指を離す。代わりに、バッグの持ち手をギュッと握り締めて……早く断らなきゃ。
「……返事は?」
シートベルトが外れて、シュルッと擦れる音がした。
「まだ分からない?彼女がいたら、普通はこんなことしないだろ?」
大きな手のひらで頬が包まれ、身を乗り出した部長のおでこがくっついた。
一気に鼓動が全速力で駆け出して、これ以上視線を合わせられなくなる。
「マジで、疑いすぎだから」
どうして部長は、私の気持ちを掴もうとするの?
疑ったまま、このまま終わりになるはず……そうでしょ?
そっと唇が重なって、深く絡まる舌が溶けそうに熱くなる。
「俺の命令は絶対だからな?」
納得してないのに勝手に小さく頷いてしまうのは、素直になりたがる気持ちのせいだ。
「それじゃ、また明日会社でな」
車を降り、テールランプが見えなくなっても、立ち尽くして動けなかった。
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