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「なんだ、いるなら返事してよ。ねぇ、あたしのピアスなかった?」
落としたのか、外して付け忘れて帰ったのか分からないけど、きっと……特別な関係の女の人。
部長の隣が、指定席の女の人。部長を、呼び捨てにする人。
この前居合わせた、女性の後ろ姿を思い出す。
「……ねぇよ。またいつものパターンで、バッグの底にあるとかじゃないの?」
部長の言葉遣いが一気に砕けているのは、聞き間違いじゃない。
だから、こんな恋は始めなきゃよかったのに。
会社の上司なんか、好きになんかなっちゃダメだったのに。
あまりにも近い距離のせいで、どんどん気持ちが止まらなくなるって分かってたなら、もっと早く引き返せばよかったんだ。
玄関に漏れないように、声を押し殺し涙を流す。
泣きたくなくても、部長の温もりを知ってしまったから切なさが残る。
だけど、手離したくない。もっともっと、欲しい。
素直になった私は、自分でも驚くほど欲張りになっていた。
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