吾妻くんの好きな人

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お昼を食べ終えて教室に戻ろうとすると、里奈が階段を踏み外した。 「あ……っ」 「里奈!?」 里奈に飛びつこうとすると吾妻くんが里奈の腕を掴んだ。 落ちずに済んだ事に目を丸くする。 「あ、ありがとう流聖」 「ったく。気をつけろよ」 「あはは。なんか急に階段の高さわかんなくなって」 「昔からそういうとこあるよな」 二人がなんだか楽しそうに話している。 なんか吾妻くん、あたしの時より断然優しくないか? 話し方とか雰囲気とか……。 少しイラついていると中原くんが里奈の肩を掴んだ。 「大丈夫?」 「ああ、ごめんね彗斗。ちょっとボーッとした」 「ううん。里奈に何も無いならいいんだよ」 中原くんが吾妻くんを見る。 吾妻くんは里奈から手を離して顔を逸らした。 何? 今のピリッとした空気……。 それに気づいたのは恐らくあたしだけだろう。 花音と夕は里奈に心配の声をかけているし、小島くんと大野くんはスマホゲームの話しをしている。 もしかして吾妻くん……? そう思ったけど今は言わないことにした。 帰りに聞いてみよう。 多分めっちゃ嫌な顔されるだろうけど。 あたしは里奈に近づいて笑いながら里奈の背中を叩いた。 ……そしたら倍くらいの強さで腕を殴られた。 解せない……。 放課後。 里奈は中原くんと帰ると言って帰り、花音は補習へ向かい、夕は美術室へ行くと言って去っていった。 あたしはと言うと……。 「やっぱり帰りも吾妻くんとだよね……」 「なんだよ。不満なのか」 「いや、不満って言うか……。吾妻くんは友達だし普通に帰るのはいいんだけど、周りの人にはあたしは『吾妻くんの彼女』でしょ?プレッシャーがヤバいわけ」 「そのまま歩いてればいいって言わなかったか?俺」 「存在してるだけで役立つんだよね、あたし」 朝と同じように冷たい目を向けられるがそんな事はどうでもいい。 周りの痛い程の視線にため息を零しながら通学路を歩く。 吾妻くんは気にした様子もなくスマホを触っていた。 .
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