吾妻くんの好きな人

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吾妻くんの泣きそうに歪んだ顔は、まるで迷子になった男の子。 こんな顔もするんだ。 「あたしは吾妻くんの『アイテム』だって言ってんでしょ!?だったら!!ドS暴君らしくあたしの事使えばいいじゃん!!何カッコつけてんの!?」 「出来るわけないだろ!?彗斗は俺の友達で、そんな奴から奪うなんて……っ」 「中原くんがいい人なのは知ってるよ!!でもだから?里奈の事に関してはライバルじゃん!!ライバルに何遠慮してんの!?」 「ライバルって……っ」 「最終的に選ぶのは里奈だからあたしは何とも言えないけど、吾妻くんが可能性を感じてるならあたしは協力する!!」 吾妻くんが目を見開く。 それから苦しそうに下を向いた。 「なんで……お前、そこまで……」 「だって友達には幸せになってもらいたいじゃん!!こんな苦しそうな友達、放っておけないもん!!」 そう言うと吾妻くんが少し笑った。 「……わかった。じゃあ、協力しろよ」 「うん!!」 「俺が里奈の事、諦めるの」 「うん!!……え?」 吾妻くんが深く息をつく。 「最終的に選ぶのは里奈なんだろ?だったら俺は我慢せずにやりたいようにやる。里奈に振り向いてもらえるように」 「え?え?」 「だけどそれで里奈が1ミリも俺に振り向かなかったら、諦められる気がするから。だから、協力しろよ」 吾妻くんの覚悟は、しっかり伝わった。 何度も頷くと吾妻くんがあたしの髪の毛をぐしゃぐしゃにした。 「馬鹿だな、お前」 「あ、いつもの吾妻くんに戻った」 「うるさい」 吾妻くんの横に並んで歩き出す。 吾妻くんの心の中を少し覗けたみたいで嬉しかった。 .
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