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第1章
「…なあ」
「どうした」
無表情に雑誌を繰っていたルームメイトにコーヒーを差し出すと、軽い謝意の後に彼は俺に話しかけてきた。先を促しながら自分の分のコーヒーに口をつけると、まるで今日のお天気は晴ですねというようなさりげなさでもって宣った。
「ヤりてぇ」
………そこからきっかり3秒後。
「ごふっ」
俺は口に含んでいたコーヒーをふきだした。
「…きたねぇなぁ」
ボソ、と呟くルームメイトは雑誌でしっかりガードして飛沫を防いだようだ。言いたい事は多々あったがそれを口にする気になれず、俺はそばのテーブルに手にしていたマグカップを置いて黙ってティッシュを取りに行った。
「…なあ」
「…なんだよ」
「だからヤりてぇって」
「…何を」
数秒後ティッシュボックスを片手に付近の掃除を始めた俺に、今度は雑誌を放り出して彼がいう。その主張するところの内容は大体理解していたが、それでもあえて俺ははぐらかした。しかし不機嫌に聞こえるだろう俺の低い声などお構いなしに、奴はティッシュでテーブルを拭き始めた俺にの手を掴み、そのまま此方を見つめ、にぃ、と笑う。
「…せっk」
「せめてオブラートに包めこの大馬鹿ッ!」
みなまで言わせず、俺は掴まれたのとは反対の手でゲンコツを作ってその脳天をはたいた。
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