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首の肉に刃が食い込む寸前のところを素早く右手で遮った。勢いづいた男のナイフが、オレの掌を深く抉り裂く。赤く冷たい血液が勢いよく傷口から溢れだし、ぼたぼたとソファを赤黒く染めた。
咄嗟に右手を犠牲にして首筋を守ったオレの行動に、男は一瞬怯んだように目を剥いたが、己の力を過信したのか口元を吊り上げ、卑しい笑みをつくる。
「ど、どうだジルベルト……痛いなら喚いたってい、いいんだぜ……」
興奮のあまり呂律が回っていない男を、目を細めて睨み据えた。
「痛い? 馬鹿いうんじゃねえよ」
「なんだと」
男がナイフを再び持ち直す一瞬の隙。
「今度はオレの番だなあ?」
え、と目を丸くする男の顔面を傷ついた右手で思い切り殴りつけた。ぐにゃりと柔らかく、それでいてゴリッという骨を砕く確かな手応えがあった。
「ぐぁっ!!」
赤い血が壁や床に飛び散ったが、それがオレのものなのか男のものなのかは分からない。
予想していなかったカウンターを直撃され、男の足がふらつく。もう一度殴りつけてやろうとソファから降りたところで、男が床に膝をついた。
鼻の骨が折れたのだろう。小さく呻きながら、鼻梁を押さえて悶絶している。だが瞳だけはオレを恨みしげに睨み据えてくる。癇に障る野郎だ。
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