序章

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「いいかい。私がいなくなっても、その能力は軽はずみに使ってはいけないよ」  夜の闇を貫くように雨が降っていた。強く烈しく、白い粒となってオレと先生の体を伝い落ちていく。  激烈な雨音が絶えず辺りに響きわたる。  人通りのない細い路地裏。崩れかけた建物の間に、身を捩じるようにして先生とオレはここまで逃げてきた。建物に遮られているためか、この空間はまるで切り離されたような静けさが漂っていた。  先生はひどい怪我を負っていた。子供のオレが見ても分かる程の重傷だ。頭からは赤黒い血が滴り、それを拭う先生の白い白衣は泥と血で汚れている。  寒さと痛みによって先生の体は小刻みに震え、吐き出される息が白い。 「――いいかい」  縋り付くように服の端を掴むオレを、先生は穏やかな顔で見下ろしながら言葉を続ける。 「お前は私たちがしていたことと、自分のことを出来る限り忘れるんだ。それが、お前にとっての幸せに繋がる」
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