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「ミア?」
「私の大切な一人娘だ。あの子は一人ぼっちになってしまう。だから、お前が娘の力になってくれないか」
「オレが?」
「ああ」
先生は穏やかに笑いながら、オレの手を取って掌に金の鎖を落した。手に取ってみるとたわんだ鎖の先に小さなロケットが引っかかっていて、つまみを押すとカチンと蓋が開く。
そこには茶色い髪をゆるやかにリボンで束ねた、幼い少女の写真が差し込まれていた。きつく吊り上がった青い瞳が印象的な少女である。だが、その頬には一筋の痛々しい傷痕がざっくりと刻まれていた。
以前娘が事故に遭い、顔に傷を負ってしまったと先生が零していたことを思い出した。端正な顔立ちだからこそ余計に、雑な手術痕が痛々しい。
「……ミア」
「そうだ。頼んでもいいかい?」
「……う、うん」
戸惑いながらも、小さく頷くと先生はほっとしたような笑みを浮かべた。
「有難う、ジル」
「でも、先生は?」
オレの問いを遮るようなタイミングで、再び遠くで建物が崩れる音がした。
「もう行かなくては」
決意が込められた言葉に、はっとして見上げる。
「さよならだ、ジルベルト。ミアを頼んだぞ」
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