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「きっと君はこーない」
白いもやとなって消える歌は、綺羅びやかなこの街には酷く不釣り合いだ。
「独りきりのクリスマス・イブ」
煌々とした笑顔は眩しいから、私は進んでコントラストの影になる。
誰かが見つけてくれたら嬉しいけれど、シンデレラ・ストーリーなんて所詮はお伽話。
そもそも彼女は自ら進んで舞踏会に出たいと望んだから、幸せを掴めたのだ。
魔法使いに変わりたいと懇願することすら出来ない私は、鼻から主役になどなれない。
「……帰ろ」
ぬるくなった缶コーヒーを喉に流し込み、醜い心と一緒にゴミ箱へ投げ捨てた。
すれ違うカップルの数を数えながら、カシミヤのマフラーをミュートにして、誰にも聞こえない叫びを歌う。
「Silent night,Holy night――……」
清しこの夜、聖なる夜。
私は独り、地下鉄に乗る。
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