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「おい、たいへんだぞ」  3組の予選会翌日だった。つぎの戦闘シュミレーション教室に移動しようとしていたタツオの腕を、後方から駆(か)けてきたクニがつかんだ。 「なんだよ、痛いな」  相撲部の後藤との試合で擦(す)りむいた左腕の外側だった。畳とこすれて名刺ほどのおおきさのかさぶたができている。 「それどころじゃない。東島(とうとう)ネットに昨日の試合がアップされてる」  進駐官養成高は、正規の高等学校とはいえ軍事施設なので、外の世界からは孤立した独自の内部ネットワークが開設されていた。すべての生徒が授業のスケジュールや訓練の内容を、各自のディスプレイで確認することができる。となりにいたテルが叫んだ。 「昨日の試合だと? 予選は敗退して本選に出場できないやつの名誉を守るために、非公開にするって決めただろ」 「そんなこといわれても、おれだってしらないよ。ただ昨日のベストマッチのハイライトを誰かが勝手にアップしてたんだ」
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