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あの後どうなったかはよく覚えていない。
迎えに来たのは和緋ではなく久遠と海斗だったということだけはわかった。
助かったという安心からか、俺はすぐに意識を失った。
翌日、社長室で海斗はあの時のようにたくさんの謝罪をしてきた。
「クビにしてください」
そう言って辞表を持ってきたが、久遠がそのまま半分に切り裂いた。
あの時の海斗の驚きと不安の入り混じった顔は面白かった。
「悪いと思っているなら職務を全うしろ」
「辞めることは許さない。海斗は俺のために生きるんだろ?」
久遠の言葉に続けて笑顔で告げる。
「覚えててくださったんですね」
忘れてなどいない。
忘れるわけがない。
幼い頃、海斗が言った言葉。
1人でつまらなかった病室も、彼が訪れるようになってから楽しくなった。
初めての友達。
目が覚めるのが待ち遠しくて、起きるのが楽しみになった。
俺は海斗を助けたんじゃない。
海斗が俺を助けてくれたんだ。
そんな彼を簡単にクビになどできるものか。
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