[2]さよならが言えなくて

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【Side 疾風】 例の転入生が来てから委員長である仁は全く仕事をせず、風紀室にすら寄りつかなくなった。 所謂、骨抜きにされたというやつだ。 幸いそれも委員長だけで、他の役員がいることが不幸中の幸いか。 しかし、委員長という役柄がいないだけでできる仕事の量が変わる。 それは委員長会議も例外ではなく。 本来なら委員長が出席しなければならないはずの会議に、副委員長である俺が出るはめになった。 遅れて会議室にやってきた会長は、以前見たときよりも確実にやつれていた。 それでもやはりナンバー1の貫禄はあり、隙を見せることなく会議は進む。 確か噂では生徒会役員も転入生に夢中だと聞いた覚えがある。 そのため会長はひとり生徒会室に缶詰で仕事をしているだとか… そんなの、会長の親衛隊が流した、ただの噂でしかないと思っていた。 でも。 彼の姿を見れば誰でもわかるだろう。 何が真実なのかなんて。 他の委員長たちが次々と部屋を後にし、残るは俺と早乙女だけになった。 俺が話しかけても返ってくるのは単調な返事のみ。 風紀の書類が来ないと言われれば返す言葉もなく、姿を現さない仁のせいにするしかない。 先に立った早乙女の体が若干揺れたような気がした。 机に手を突いて動かない彼を見て、本当に大丈夫なのかと心配になる。 何もなかったかのように部屋を出た彼を追いかけようともしたが、プライドの高い奴の事だ、きっと嫌がると思い後は追わなかった。 しかし、風紀室に戻り残りの仕事を再開しようとした時、机の上にあった今日締め切りの生徒会への書類が出来上がっていることに気付き、すぐさま生徒会室へと向かった。 また何か言われるかな、と軽い気持ちで。
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