憧れの職場恋愛

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  会議室での打ち合わせを終えて、取材とパレードまでの少しの間を過ごすことになった署長室。 部屋の中にいるのは、今日一日だけ警視として階級を与えられた雇われ署長と、本物の署長、そして雇われ署長のマネージャーと警視庁の男性職員1人と同じく警視庁職員の私の5人。 いかんせんこの咲山真という男は世間を今にぎわせている人気俳優であるから、署内にも彼とお近付きになりたいというミーハー婦警がたくさんいた。 そのため署に着いた時から女子たちの視線が凄かったし、見ているだけではなく職務時間中にも関わらず握手を求めてくる強者も少なくなかった。 この署に一日署長を迎えるのは13年ぶりらしく、長期勤務者以外にとっては初のイベント。 初めての一日署長の来署に女子のみならずほとんどの職員がワクワクしているようだ。 彼は慣れっこです、なんて笑って握手していたが、せめてパレードまでは静かに過ごせるようにと本物の署長が気を遣ってくれて、少しの間ではあるがこの署長室で過ごすことと相成った。 それは良いのだが、なぜ私がお茶を入れなければならないのか。 本当にお茶が欲しいならこの署の庶務を呼んでほしいものだ。 それなのに誰もそうしないのはここにいるほとんど、警視庁職員1人以外は私と雇われ署長の関係を知っているからである。 その証拠に、本物の署長はいつもより眉をさらに下げた困り顔で苦笑いをこぼし、雇われ署長のマネージャーに至っては私の様子を見ながら笑いをこらえて肩を揺らしている。 「…山野辺署長、給湯室どこですか」 大人げないなと自覚しながらも、あからさまにむすっとした顔で本物の署長である山野辺さんに給湯室の場所を聞けば、彼は人の良い笑顔を浮かべて丁寧に場所を教えてくれた。 山野辺さんとは警視庁に入った時に2年程同じ課でお世話になった。 昇格して山野辺さんが場所を移るまで、よく面倒を見てもらった仲だ。 だから今回、咲山真の一日署長に付き添うことが決まった際に一言、彼との間柄を伝えておいた。 結果的に、伝えておいて正解だったと思う。  
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