憧れの職場恋愛

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  (それにしてもなんで職務中に、真にお茶を入れなきゃいけないんだ…) コポコポと音を立てる急須にフタをして、少しの間茶葉を蒸らす。 どうやらこの署にはお茶好きの庶務がいるらしい。 ポピュラーなパック茶から、ちゃんとした茶葉までそろっており、煎茶、番茶、ほうじ茶、玉露と種類も様々。 その中から伊勢産の玉露を選んでお湯を注いだ。良い香り。 コンコンッ… 「失礼します」 淹れたてのお茶をお盆に乗せ、扉を開ければ山野辺さんと警視庁職員はソファーで談笑中、雇われ署長とそのマネージャーは署長席でスケジュールの確認をしていた。 「署長、お茶が入りました」 「おっ、気が利くじゃないか」 「………。  山野辺さんもどうぞ」 「あぁ、悪いね、ありがとう」 コースターを敷いて湯のみを置くと、湯気が波打って緑茶の香りがふんわり広がる。 雇われ署長だけではなく、室内にいる全員にお茶を配って出せば、山野辺さんには苦笑いされてしまった。 女子だからと任されるこういう仕事を私が昔から好まないのを知っているから、きっと憐れんでくれているんだろう。 一応、これでもキャリア組のブレインとして警視庁内では名が知れてる方だ。 階級だってこの間昇格して警視正になった。 客人へのお茶汲みなんて入庁後すぐの新人時代にしかやっていないから、かれこれもう5年ぶりくらいである。 「山野辺署長、廊下に婦警が数名、我々が出てくるのを待っている様子でした。山野辺署長の指示でなければ職務に戻るように言ってきますが」 「あぁ、悪いね。みんな一日署長の来署が嬉しくて仕方ないんだなぁ」 「こんなミーハーな様子で大丈夫でしょうか、パレードが心配です」 「パレードには男だけを集めたから大丈夫だろう」 きっと外にいるのは内勤の庶務さんたちだよ。 パレードまで出動待ちならばともかく、内勤の者ならば尚更仕事をきちんとしてほしいものである。 仕方ないな、と再び扉を開けて廊下を覗けば、声をかけるよりも早く、私と目が合った途端彼女たちはそそくさと背を向けて去って行く。 (…きっと私より年上だな、) 去って行く背中をしばし見送り、そのまま黙って扉を閉めて振り返れば、雇われ署長は嬉しそうにヘラヘラ笑いながら署長席から私を眺めていた。  
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