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バイトの帰り道、公園で泣いている人がいた。
ベンチに座ってどこも見えないような目で前を向いていた。
土砂降りのなか傘もささずに濡れ放題な彼はとても綺麗で、水も滴るいい男とはこのことかと思った。
呑気に彼を眺めていたら、今雨が降っていることをすっかり忘れてしまった。手から傘が落ちそうになってやっと彼がずぶ濡れだということに気が向いた。
少し早歩きで彼に近づき、無言で傘を差し出した。しかしそれに彼は気付かず、そのままボーッと正面を向いていた。
今度は声をかけてやると、ようやく俺に気付いたらしく、こちらに目を向けた。
嗚呼、なんて綺麗で空虚なのだろう。
彼の瞳を見た途端、異常に悲しい気持ちになった。
手を差し伸べてやりたい、抱きしめてやりたい、お前はひとりじゃないと言ってやりたくなった。
綺麗で空虚な瞳をした彼は、俺が濡れてしまうと傘を貰うのを躊躇ったが、このままでは彼が風邪を引いてしまうので、無理矢理押し付けてやった。
幸い家は走ってあと数分のところにあった。少しくらいなら濡れて構わなかった。
金色の髪が微かに揺れ、俺の顔を見た。あの美しい瞳が俺を写したと思うとたまらなく嬉しくなって、頬が緩んだ。
あぁ、今俺はどんな表情をしているんだろう。
嗚呼、これはきっと一目惚れだ。
人生初の恋はどうやら相手は男で、しかも一目惚れのようだ。
次の日の同じ時間、あの公園に行ったが、彼はいなかったもう彼には会えないんだと心が苦しくなった。
だから、いつもどおりの大学への通学路を歩いているとき彼に会えて本当に嬉しかった。心臓が身体から飛び出るんじゃないかと思った。
これはきっと運命だ。
俺は人生で初めて神様に感謝した。
俺を彼に巡りあわせてくれてありがとう神様。
俺は彼を大切にします。
彼は俺に無駄に絡んできた。いつでも気付いたら俺の側にいたし、俺も彼の側に行った。
日に日にあの空虚な瞳が俺で満ちていくのがわかった。
俺がもう彼なしじゃダメなみたいに、彼も俺なしじゃダメになっちゃえばいいのに。
そんな欲張りな俺の願いを、神様はまた叶えてくれた。
たまには欲張って見るものだ。
俺は幸せ者だ。
彼から離れたくない。
神様はこれも叶えたくれるのだろうか…?
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