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「すみません」
胸の高鳴りを必死に抑える僕とは対照的に、足を止めて振り返った白い顔は、まるで呼び止められることを予想していたかのように親しげな笑いを仄かに帯びていた。
しかし、ここで止めるわけにはいかない。
両のポケットから同時に一点ずつ指輪を取り出した。
「これ、片方が本物のダイヤで、もう片方はそっくりに作った偽物です」
貧弱な僕の両手の先に、二点の虹色の輝きが点った。
どちらもプラチナの台に一カラットの石が嵌め込まれている。
大きさも、形も、色合いも、そして輝きまでもが、まるで双子のように酷似した二点の指輪。
「どちらが本物か当てて下さったら、そのまま差し上げます」
一息に言い終えてから、彼女が口を開きかけたのに被せて、僕は言葉を継ぐ。
「あなたは皇女様ですから」
挑戦的に言い放ったつもりだったのに、なぜか懇願じみた調子になった。
広間では音楽が始まったらしく、バイオリンの音色が遠く聞こえてくる。
事情を知らない人が僕らを見かけたら、馬鹿な職人の息子が綺麗な女性にのぼせ上がって求婚の真似事でもしていると思うかもしれない。
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