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「あなたは、私に本物を選んでほしいのかしら」
彼女の目は真っ直ぐ僕を観ている。
廊下に点けられた灯りが、白々と彼女の顔を照らし出していた。
広間のオレンジの灯りの下では明るい青の瞳だと思ったが、こうして眺めると、僅かに灰色が混ざっている。
――亡き皇帝陛下は明るい青、皇后陛下は灰色が勝った茶色の目をしていらして、ご夫妻とも本当に美しかった。
母さんが繰り返し語った言葉が頭の中で蘇る。
「私が選んだ方を偽物だと言いたいのではないの」
長い睫毛に覆われた青灰色の目は穏やかに微笑んでいる。
怒りや狼狽の色は微塵も見えなかった。
だからこそ、僕はこの人と向き合っている状況が急速に怖くなってきた。
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