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「二つとも、とっても綺麗だわ」
むしろあどけないほど純粋な賛美の口調だったにも関らず、お前は醜い、と言われた気がした。
彼女は絹のように柔らかな声で続ける。
「だからこそ、どちらかだけは選べない」
どちらも偽物だから、と告げられた気がした。
模造のダイヤモンドの光を反射した彼女の瞳は、しかし、眩いほど煌めいて見える。
もし、こんな石があったら、どんな高値がついても、売りに出さず、自分の引き出しに収めておきたいと頭のどこかで思う。
「私はね、一度、死に掛けてから、他人の決めた尺度より、自分がより良いと思う方を選ぶことにしたの」
彼女は無邪気な調子でそう言い切ると、いたずらっ子のように笑った。
――あの女の正体は、爆発事故で気のふれた女工。
――王家の遺産を狙う連中に利用されているだけの操り人形。
曇りのない瞳で笑う彼女を前に、頭の中で耳にした噂話がぐるぐる回る。
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