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「それに…っ。あなたのは単に憧れみたいな、一時的なものだと思ったし。…おまけに生徒だし」
檜から目を逸らすと、幸子はゴニョゴニョと言葉を濁した。
檜はゆっくり手を伸ばし、キュッと幸子の鼻をつまむ。
「きゃっ?! え?? なに」
「勝手に決めつけんなって」
「檜…」
「あん時、俺がどんだけ傷付いたか」
ワザとらしくため息をついてみる。
「…ごめん」
檜は彼女を見つめ、ふっと頬を緩めた。
「俺さ。自分の気持ちにはかなり自信あるつもりだけど…?」
「…ん」
「だから目移りとかつまんねー事考えんな」
幸子はぎこちなく笑い、うん、と答えるとそのまま俯いた。
その仕草に疑問を感じ、首を捻る。
少しの沈黙の後、彼女は眉を下げたまま不安げな目を向けた。
「…水城さん、は?」
「え…?」
「前に付き合ってないって言ってたけど。それなりの事はしてたんでしょ…?」
(あ…)
グッと言葉に詰まった。
そうか、その問題が有ったのかと気付く。
幸子にはあの失態を見られていたのだ。
無言になる檜の反応を見て、彼女の瞳ににわかに涙が溜まる。
「…うん」
その目から視線を逸らさず小さく頷いた。
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