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すがる様な目を向けられ、胸の奥がズキっと傷んだ。
丸い瞳がゆらゆらと揺れている。
思えばこんなに弱々しい幸子を見るのは初めてだった。
辛い事や不安な事が有っても、それを面に出さず気丈に振る舞っていた、そういう事だろうか…?
檜は手を伸ばし、彼女の頬に触れた。
「分かった…」
丸い瞳を捉えゆったり微笑むと、幸子は目を細めた。
涙目のまま笑みを浮かべ、コクンと頷く。
彼女を不安にさせない。
檜は自分に強く、そう言い聞かせた。
*
今日は日曜で幸子の仕事も休みなので、とにかくデートしようという事になった。
12月25日、クリスマス当日だ。
ただでさえカップルが多い街中。
その中で知り合いに会うなんて事になれば、堪ったもんじゃない。
だから彼女の車を走らせ、出来るだけ遠方へと足を延ばした。
出掛ける前に檜の家にも寄って貰い、簡単に着替えを済ませた。
グレーのニットキャップに伊達眼鏡で現れると、幸子は微かに頬を染め、くしゅっと微笑んだ。
「何か違う人みたいでドキドキする」
そう言って車を出す。
「ハハ…、マジ?」
檜もつられて笑った。
知り合いに会った時、少しでも自分だと思われない様にと敢えて雰囲気を変えてみたのだ。
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