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「あなたと…」
か細い声が耳に届き、檜は口を結んだ。
「あなたと一緒だと…。
あたしは幸せになれないの」
「え…?」
瞬間、頭の中が真っ白になり、そう呟いていた。
「…さっき檜が言った様に、あたし達のした事は間違ってないって。
周りを強く言い聞かせても、世間はそうは見てくれない」
「…で、でも。そんなのっ。
ふたりで学校を辞めてしまえば、関係なくなるんじゃ」
「あたしが教師をしてたって過去は…っ!
誰にも書き換えられないものっ!」
だけど、と再び顔を歪めてしまう。
幸子の口からそんな正当な意見など、聞きたくなかった。
振り返った幸子は、最早泣き顔じゃなかった。
感情が読み取れず、真顔で檜を見返してくる。
だから、と彼女は重い口を開けた。
「あたしの事は…。
もう忘れて下さい」
「…っ!!」
目を見開き、檜は言葉を失った。
「こんな形で裏切る事を、
許してなんて言わない…っ。だけど」
「…」
「…もう。
疲れたの」
そう言って幸子は俯くと、静かに背を向けた。
ゆっくりと去って行く小柄な背を一心に見つめたまま、暫く動けずにいた。
不意に全身から力が抜け、檜はその場に膝をついた。
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