22.恋人

5/22
前へ
/402ページ
次へ
幸子はテーブルの上にコップを置くと、ベッドに近付き、檜と向かい合う形で立った。 「こうやってふたりでいる時は…あたしの事、先生って呼ばないで? あたし…プライベートは教師じゃないから」 檜は顔を上げ、幸子を見つめ直した。 神妙な顔付きで頬を膨らます彼女。 今目の前にいる彼女の雰囲気は、学校で見るそれや旅行で見たそれとは異なっていた。 間柄が変わっただけでこうも違うものかと何だか可笑しくなる。 「分かった…じゃ、幸子って呼ぶ」 「うん…それがいい」 彼女は頬に窪みを作り、くしゅっと微笑んだ。 「俺さ…。幸子のそのえくぼ、好きなんだよね」 言いながら彼女の腰に手を回す。 幸子はキョトンとし、次いで照れ臭そうに、そうなんだ? と言った。 「あたしも秋月くんの…クシャって笑った顔大好き。可愛くて」 「可愛くねーよ」 「アハハっ。ごめんごめん」 無邪気に笑いながら、幸子は檜の肩に手を置いた。 「…その目に見つめられるとね、ドキドキする」 「え…?」 「茶色の目。なんか吸い込まれそうで」 「…そ、っかな?」 言いながらパタパタとまばたきする。 「うん。それも秋月くんの魅力だよね…」 檜は一拍無言になり、ツイと幸子を見上げた。 「なぁ…?」 「うん?」 「俺の事、檜って呼んでみ…?」 幸子は恥ずかしそうに口ごもり、 「…ひのき、」 と発音した。 「…そう」 「…? きゃっ??」 グイッと彼女の腰を引き寄せ、仰向けにごろんと寝転がる。
/402ページ

最初のコメントを投稿しよう!

277人が本棚に入れています
本棚に追加