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その格好で幸子をギュッと抱きしめると、胸の奥に甘い花の香りが広がった。
「…ごめんね」
幸子は急に悲しげな口調になり、ポツリと呟いた。
「なにが…?」
謝られる事に心当たりが無いのでキョトンとする。
「あたし…。ほんとはあなたが卒業するまで待つつもりだったの」
「…うん。…ん?」
それで何でごめんなんだ? と黙ったままでいると、幸子は檜の胸に顔を埋めた。
「…前に。告白の返事した時、言ってくれたでしょ? 卒業したらもう一度告白してくれるって」
「うん」
「だからその時まで我慢しようって決めてたの…なのに自分の気持ち、抑えらんなくて…」
彼女が自分の立場を気にしてるんだという事は分かった。
「俺は幸子とこうなれて嬉しいよ? それに俺、バレない様に気をつけるし」
幸子はううん、と頭を振る。
「あたしは結局自分の事しか考えて無いの。
あたし達の関係が世間にバレたら…。あたしは自分から教師を辞めれば良いけど…あなたは退学になるかもしれない。
檜の将来に傷がつくかもしれないって分かってたのに…っ。あたし…」
そういう事か、と息をつく。
(だから‘ごめん’…か)
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