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「何か困った事があったらいつでも俺に相談してね」
「とりあえず今はないな」
「だから、困った事があった時!」
「そうだな」
僕がなんとなく落ち着かない様子でいると瑠璃は 「んもう! わかりました、駅はあっちだよ!」と口を尖らせて指差した。
「あ、ああ、すまない、それじゃ!」
僕は瑠璃の母親にも軽く会釈すると、彼女は車の助手席に座ったまま笑顔を絶やさずひらひらと手を振っていた。
僕はすぐに守が歩いている方向を目指して走り出した。
高いヒールと足にまとわりつくドレスの裾のせいでとても走りにくい。
こんな風にハイヒールで街中を走る大女を他の人はどう思っているのだろうか。
変なでかいおかまが街を走っているって感じかな。
僕が息を切らせて曲がり角を曲がると、僕があげたコートを着た守がマフラーと帽子を被り通りの野良猫と戯れていた。
やっぱりそれほど遠くへは行ってなかった。守は寄り道ばかりするからな。
野良猫が守の周りをまとわり泣きつづけている。僕は彼の様子をしばらく見つめていた。
ネコを抱えて嬉しそうに顔を近づけている守を見たら、ほっとしてしまった
体にまとわりついていたネコが守から離れると守はそっと立ち上がる。
ふと僕の気配に気づいて振り返った。
何も意識しなかった自然な表情が僕の気持ちにすっと入りこんで来て、たったそれだけの事なのに胸が熱くなった。
そして思わずそんな彼を抱きしめたい衝動にかられた。
「隆二?」
「守、時間あるか? バイトは?」
「今回のバイトは昨日で終わったよ。明日はクリスマスケーキの売り子のバイトがあるけど」
「そっか」
通りはクリスマスの飾りや音楽で溢れ、人通りもそれなりにあった。その中を僕らは話しながら歩いている。
「このまま歩いていたら男女のカップルに見えるだろうか」
僕が呟くと守が笑う。
「でも随分不釣合いだと思われちゃってるよね」
「そんなことはないさ。それに僕が僕だとは思われてないだろうってのがいいな。へんなおかまの男とか?」
「そんなことないよ! 美人なおねえさんと貧乏くさい青年のカップルみたいに見られてるよ。で、『な、なんであいつにあんな綺麗なお姉さんが! 畜生、羨ましいぞ!』状態だよ、恐らく僕は今周囲から嫉妬の目で見られてる」
守の言い方がおかしくて僕は笑ってしまった。
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