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「こんなことしてもなんとも思われないかな?」
「え?」
僕はそう言うと守の腕に自分の腕を絡ませてみた。
守は一瞬どきまぎしたようだったが、はみかみながらにっこり微笑むと僕のしたいようにさせてくれた。
周りも特に何も僕らを不思議そうな顔でなどみなかった。
腕を組んでいるカップルなど他にも沢山いる。
みんな二人だけの世界に浸っている。
人通りが少なくなった裏路地に入ると、僕は不意に守の顔に自分の顔を寄せた。そっと軽くキスをする。
まさかキスまでするとは思わなかったんだろう、守は少しだけ顔を赤くした。
「隆二……」
「これからどちらかが女装してデートしないか? きっと誰も変だと思わないくらいどっちかが女になりきってさ……そしたらどこにでもいける。そう思わないか?」
「……」
「冗談だよ」
僕はそのまま再びキスをした。今度は前より長く、深く。守はそんな僕のキスを拒絶しなかった。
むしろ瞳を閉じて僕の背中に腕を回し、抱きしめながら僕を受け入れてくれた。
きっと傍から見ればシルエットだけなら誰も変だとは思わない。
クリスマスの恋人が抱き合ってキスしている。
そんなごくごく普通の景色に染まれた自分と守の温かさで満たされて、開放感を感じる。
今の僕にはこの瞬間がただただ嬉しかった。
「ここ辺りですね」
「そうだな」
潮野の声で、ふと回想から現実に引き戻される。
車が次第に今日行うパーティ会場へ近づいていた。
パーティ会場は小さなレストランを貸しきるという形だそうだ。
この時期色々な場所でパーティを行っている。潮野マネージャーが車をレストランの傍に寄せた。時計を見る。約束の時間よりまだ少し
早い。
「隆二さん、それじゃ」
「すまない」
車を降りて彼に手を振ると、彼の車はそのまま近くの交差点を右折した。
車が消えるのを見届けた後、地図を確認すると確かに目の前に赤い屋根の煉瓦造りの建物がある。
外に出ている樹の看板の店の名を見て、ここであることに間違いないと確認すると、そのまま歩き続けた。
大きな白い枠のウィンドウ越しに、もう店内に何人か人が集まっているのが見える。
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