第1章

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「あっ、いえ」 「鶫だって凄いって言ってた癖に~~」 「そ、そんなことねぇよ!」 「そうなの~?!」  桐香くんがめいっぱい鶫に顔を近づけると、何故か鶫は耳まで真っ赤になって焦る。 「馬鹿、いきなり顔、近づけんなよ!」 「? 何怒ってんだよ~」    そうこうしているうちに食事が始まる。今年はみんなで順序良くワインを開けて乾杯した。  待ちきれなかったのか海倉達例のスタッフは食前酒を煽るように飲んで、ワインも一気に飲んでしまった。  オードブルから始まり、食事が進む中会話も弾む。  年末の初詣の約束を交わしたり、やはりこのメンバーで集まるのが一番僕は安心する。    それに目の前には。 「……」  僕は彼の顔を見つめたが、彼はそれどころではなかった。  フォークやナイフをどう使いこなしたらいいのか戸惑っている。 「守、外側から使うんだよ」 「あ、うん」  僕はみんなと楽しく食事をしつつも隠し持っている彼へのプレゼントを早く渡したくて仕方なかった。  食事が始まるといつものみんなの歓談が始まる。  僕は守の食事風景を見るのが好きだ。彼は本当に美味しそうに食事をする。  けれど先ほどからどうも周囲の様子がおかしい。何故か他の人間から視線を感じる。  それほど自意識過剰でもないつもりなのだが、数年前からテレビのドラマにも出るようになったせいで、街角でよく今のような視線を感じる事がある。  そのせいで誰かの視線を意識しすぎるようだ。 「なぁ……」  僕は隣に座っている瑠璃にそっと耳打ちする。 「んーなぁに?」  彼はメインデッシュを口に運びながら呑気な顔で僕を見た。 「どうもさっきから誰かしらが僕を盗み見てるような気がするんだが」 「気のせいじゃないの?」 「そうかな?」 「ちょっと隆二さん最近自意識過剰気味?!」 「……う。そうか、そうかもな」
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