第1章

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 目の前の守がたどたどしくフォークとナイフを使い、メインデッシュのステーキを切っていた。  どうもあまり上手く扱えてないようだ。そのうちにどさっと鈍い、何かが落ちた音が聞こえた。 「あっ!」  守の隣にいた鶫が落ちた物を見て声を上げる。  どうやら守が持っていた何かがあちこちにばら撒かれたようだ。  鶫が慌てて立ち上がると、その周囲の人間までもが立ち上がり、彰人までががさがさと何かを拾い始めてる。  その様子に焦りすら感じる。 「あ、すみません」 「駄目じゃん、守さん、俺が預かっとく」  ようやく拾い終えたのか、今度は彰人がその封筒を預かるような形で何食わぬ顔で持った。  一体何事かと思ったものの、僕は気にせずそのまま食事を続けていたが、ふと足元に何かが落ちているような気がして下を向いた。  何か葉書のような物が落ちている。  徐に僕はそれを拾い上げてそれが写真だと瞬時にわかった。何の写真かと確認して思わず頭が真っ白になる。  そこには僕が先日例の店で女装した様子が、見事なほど鮮明に写し出されていた。  隣にいた瑠璃が「あっ!」と声を上げる。 「……誰だ?」  僕は写真を手にした手を震わせながら辺りを見回した。 「げっ! 拾い損ねた!」  彰人くんが声を上げたものの、もう彼らからすれば時すでに遅しだった。 「瑠璃~~!」 「うはぁ~! どうして俺だってすぐわかっちゃうの~~」  僕は瑠璃の首に腕を回してぎりぎりと締め付けた。 「お前以外に誰がこんなこと思いつくんだよ!」 「ひ~! ちっ、違うんだって! こ、これは守へのクリスマスプレゼント!」 「言い訳はいいんだよ!」  僕は少し酔っていたようだ。そのまま慌てて席を立って逃げる瑠璃を追いかけた。 「隆二!」  守が瑠璃を羽交い絞めにしている僕をなだめる。 「ごめんなさい」 「お前が謝る事じゃない」 「ううん、写真が欲しいって言ったの僕だから」  ……! 「そしたら、瑠璃さんがいつも写真撮ってくれてるプロの写真家に頼んでくれて、撮ってくれたんだ。だから僕のせいだよ」 「守……」 「隆二、凄く綺麗だったからこの写真、僕の宝物だよ」 「でもその宝物とやらを落としちまったけどな!」  すかさず突っ込みを入れる彰人くんの口を複数の人間が塞ぐ。
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