第1章

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 12月になると街はあっという間にクリスマス一色になる。いや、正確に言うと11月位からもうクリスマス気分になっている。  毎年見慣れてはいるものの、車で移動する時に見るこの景色を数年前までは煩わしく思った事もあった。  しかし、今は違う。僕の中で何かが変わろうとしていた。    春原守  彼は僕の心をいつも穏やかに導いてくれる。  僕とは生き方が違っていたからだろうか、人との激しい競争に身を置いた事がないからだろうか。  僕は彼の過去を知らない。それでも彼が今の僕には必要だった。  何はともあれ僕が生きて来た中で彼との出会いは、今まで会ったどの人よりも心穏やかで気持ちが安らぐ事に違いはない。  今年は主に映画2作に力を入れた年だったので、年末はポスター撮りや雑誌の撮影など細かい仕事以外は落ち着いていた。  来年、時代劇に少しだけ参加させてもらうため、京都に出向きスケジュール調整をしたりした。  その足で潮野マネージャーと東京に戻って来た。東京に戻って今度は来年出るドラマの打ち合わせをし、一通り1月のスケジュール確認が終わるといつものメンバーに会う。  そのために今僕は会場へ向かっている。  今年は去年のような大げさなパーティは開かない。ごくごく身内でするとの事だ。    僕はそっと座席の横に置いた紙袋を眺めて、彼の喜ぶ顔を色々想像しながら心が躍っていた。  しかしこの紙袋の中身を手に入れるまでに一苦労だった。  話は数日前に遡る。   『はい、もしもし!』 『瑠璃くん?』 『……隆二さん?! っ、どうしたの? 珍しいね、隆二さんから俺に電話してくるなんて』 『ああ、すまない』 『で? 何?』 『あ~いや、そのっ』 『ん?』  実は僕はこの時少々訊ねにくい事を聞こうとしていた。 『君は結構ゲームが好きだったよね?』 『え、まぁ、好きだけど』 『それじゃその、例のなんだ。FFFとかいうゲームは買った?』 『えっ、うん。もう予約入れたけど』 『予約? 発売はまだだったのか、どうりでお店になかったはずだ』 『隆二さんも欲しいの?』 『あー。まぁ、その、そんな感じで、で、発売はいつ?』 『来月だけど、何? お店で直接買おうとしてるの? ダメダメ、あれは予約しないと手に入らないよ』 『予約?』
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