第1章

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『でも、もう予約もいっぱいだから駄目かもしれないね』 『えっ! そ、そんなに手に入りにくいものなのか?!』 『そうだよ、だって凄い人気だもん。俺、桐香とか鶫に頼まれて知り合いのお店の人にみんなの分幾つか予約させてもらったんだ』 『……』  困った。そんなに人気があるものなのか、ゲームというものは。 『隆二さんまで欲しがってたなんてね、もっと早く言ってくれれば一緒に予約したのに~! でも来年まで待てば次の出荷分なら間に合うと思うけど』 『来年? それじゃ困る。クリスマスまでになんとかしないと』 『何? プレゼントなの?』 『あーまー。そんな感じで……』  僕は適当にお茶を濁すような対応になっていた。 『な~に~誤魔化して~ああっ、わかった! 俺わかっちゃったもんね~』  電話先の瑠璃は語尾の終わりに音符でも付けたようにハイな声になる。 『なんだよ』 『守にあげるんでしょ~絶対そうだ! 守なら欲しがりそうだもんね!』    鋭い。 『へへへ、図星?! 図星?!』 『……』 『あれ~?! 違うの?』 『……違う』 『あっ、そ~! 実は俺、一つ余計に予約してたから守にクリスマスプレゼントとしてあげて、守のハートゲットしちゃおうかなぁ~』 『おいっ』  僕が慌てて突っ込むと、瑠璃くんは電話先で笑い出した。 『やっぱりそうだ~!』 『からかうなよ』 『ごめんごめん、あー実はね~うーん。ママ用にもう一つ余計に予約してたんだけど。どうかなぁ、ちょっと聞いてくるね』    そう言うと一旦瑠璃は受話器を置いて保留にした。受話器の向こうでは保留の時の音楽が軽快に鳴り響いている。  そっか。ゲームとは予約して買うものだったのか。知らなかった。  前に新作のゲーム機が出たと言って、ものめずらしさに買ったものだが、レースゲームをやって以来そのまま放置してあった。  守にどうしてそれをあげたくなったのかと言うとこんな経緯があった。  移動中どこかの電気量販店のウィンドウの前で守が熱心にゲームをしているところをたまたま車で通りかかった。  すぐに声を掛けようと車のウィンドウから顔を出したのだが、彼があまりに画面に熱心で、声を掛けたのに気づかれもしなかった。
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