第1章

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 そのうち信号が青に変わり後続車にクラクションを鳴らされてしまったので、仕事の移動中ということもあり仕方なしにその場を後にした。  守はまるで子供のような目をして2、3台並んでいるゲームモニターの一つで一生懸命ゲームをしていた。  ゲームのタイトルがモニターの前の看板に記してあったので僕はそれを覚えておいた。  ゲームは買わないのか? と言うと買うお金がないと言っていた。だから彼の喜ぶ顔が見たくなった。 『おまたせ! ママ良いってさ』 『本当か! すまない、瑠璃』 『ううん。ただし!』    ただし? 『ママのある条件を呑んでくれたらだってさっ!』  僕は一瞬嫌な予感を感じながらも、この状況では瑠璃に逆らえないとしぶしぶ観念した。  クリスマス2日前。  僕は今知り合いの店の控え室の鏡の前にいる。  瑠璃の母親のリクエストに応えるためなのだが、瑠璃の母親のセンスを疑う。  こんなので彼女が喜ぶのだろうか。  知り合いにこんなお願いは駄目に決まっているよな、と瑠璃の母親に駄目だったと言うつもりで話をもちかけたにも関わらず、知り合いや店側はむしろやる気満々になってしまい盛り上がってしまった。  鏡で自分の姿を見るたびにため息が出る。潮野に相談したのだが、いつもはすぐに反対する彼が、お忍びなら大丈夫ですよと妙に聞き分けがいい。  潮野も瑠璃に何かで買収されたらしい。やけに機嫌がよかった。    店内はお決まりのモールや小物の飾り電灯、舞台と対面するように客席の後ろにはクリスマスツリーが飾られており、電灯が明滅している。  店の入り口もクリスマス一色で夕方オープンと供に早速派手な音楽が流れ、ショーが始まった。  少々ケバケバしいライティングが、ステージの中央のスカートをはいた濃い衣装を来た女性達? のダンスショーを照らしていた。  知り合いの彼女のダンスはこの店の一番の見せ場らしく、今は前座でとても女性とは思えないが自称女性の連中の軽いショーやクリスマスにちなんだトーク、歌、ダンスなどがあり時折店内は笑いに包まれていた。  その前座のショーが終わるとメインイベントでこの店のトップが登場する。  彼女が颯爽とステージに現れるとここではスターで一斉にファンらしき連中の歓声が上がった。
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