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しかしそうこうしているうちに、僕も役者である。踊っているうちにどうにも女性の演技をしたくなった。
少々可憐に踊ったりして見せて、客席から歓声があがると余計大げさに振舞ったりしたくなった。
時折投げキッスをしたり、途中から男装に紛争した美幸にしなだれかかったりした。
面白い。やばいぞこれは、段々楽しくなってきてしまった。
気づくと足元に数名の男たちが集まってきて僕を見上げているのが見えた。彼らに流し目を送ったりもした。
くそースカートの下を覗くな!
とはいえ、何故かやたらに盛り上がったステージに僕は不覚にも満足してしまった。
最後にはたまには羽目を外してもいいかとまで思っていた。
ステージが終わり裏に引っ込もうとする僕を美幸は引っ張って舞台下まで降り、客席のテーブルへ連れて行こうとする。
「お、おいっ! もういいって」
「いいから、いいから」
美幸は普段なよってる癖にこんな時ばかり馬鹿力だ。僕の腕を掴むとぐいぐいとステージ下に連れて行こうとする。
僕自身ステージ上でつい羽目をはずしてしまったが、舞台下に行くほどシラフになって来て突然照れくさくなってきた。
「さいこー! 隆二さん凄く美人~!」
「よかったわ~よかった! 最高だったわ、隆二さん!」
客席のまん前に陣取った瑠璃と瑠璃の母親は大喜びで手を叩いていた。
「満足していただけましたか?」
「もちろん言う事なしね! 条件クリアーよ」
瑠璃の母親は興奮気味に微笑んでいた。
「そ、それじゃ、お母さん、例のものは」
「ええ、いいわよ、こんなに美人な隆二さんを拝見させてもらったんだもの、あげないわけにいかないわ。けれど、本当にあれでいいの? 実はねもっと高級な別なものでもと思って」
僕は言いかけた瑠璃の母親の言葉を慌てて遮った。
「いえっ、あれじゃないと困るんです! あれを売ってください!」
「でも、あんなものでいいなんて」
「いいんです!」
僕が力説すると、お母さんは一瞬だけキョトンと僕を見つめて瑠璃の方を向いた。
「瑠璃、あれで構わないって、でもねぇ」
「ええと、お幾らでしたっけ?」
「ああ、そんなのはいいわ差し上げるわ」
「いえっ、買わないと意味がないんです!」
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