第1章

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 再び瑠璃の母親はキョトンとしたが、瑠璃が何か耳打ちすると、ふっと微笑んだ。  彼女達の顔を見て今の格好が恥ずかしいものの、その場で手渡された紙袋を手にできて、僕は思わず手が震えてしまった。  感動もひとしおだ。    守~! ついに手に入れたぞ。お前の欲しがってたゲームだぞ。 よかったなぁ~!  これで寒い店の店頭で震えながらやらなくてもいいんだぞ、暖かなうちの中でゲームができるぞ。  お前の笑顔が見れるなら、僕はなんだってやる!  こんなのは一時の恥だけだ。早く守の喜ぶ顔が見たい。    ふとすぐ傍に守の顔が浮かんで、嬉しそうに笑っている。    ああ。幻にまで出て来てしまうなんて。  もう会いたくてたまらないんだな僕は、守。  その幻が不意に僕に話し掛ける。 「最高だったよ~! 隆二~っ可憐に踊れるなんて凄い~。そ、それに。とっても、美人で」  最後の美人で。を少々顔を赤らめながら呟き、僕の顔を見て照れくさそうに笑っていた。  可愛いなぁ守。  僕の妄想の中でもそんなにプレゼントが待ちきれないのか。    っておい。    「まっ?! 守ぅ?!」  僕は思わず素に戻りスカートを履いていることを忘れ、仁王立ちのまま声が裏返ってしまった。 「おー! 隆二やるなぁお前、色っぺぇ。お前にこんな才能があったなんてな。監督の俺でも気づかねぇ事だった! いやあ、感動したっ!」  守の背後には一斉に見慣れた海倉軍団のスタッフの顔が並んでいて、みんな嬉しそうに酒を煽りながら僕を満面の笑みで見つめていた。  思わず僕は床がぐにゃりと曲がったような眩暈を覚えた。   「なんでお前らがいるんだ」 「だって俺たちだけが見るんじゃ勿体無いじゃ~ん。折角の機会だし~!」  傍にいた瑠璃がへらへら笑っていた。 「るっ、瑠璃。お、お前ぇえ!」  僕は女性の姿をしていることをすっかり忘れていた。ガニマタのまま瑠璃の襟首を掴む。 「まぁまぁ、そんな恐い顔しないで~」    その様子を見てへらへら酒を煽りながら海倉が笑う。 「そうだぞ、お前の可憐な踊りのショーと、俺らへの奢りでただ酒が飲めるってから来てやったのに。ん~~このワインうめぇな、追加頼むわ!」 「誰がお前達に奢るって言った。帰れうわばみ! 僕が招待したのは瑠璃とその母親だけだ!」 「えっ!」
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