第1章

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 急に守が口の周りをビザのケチャップまみれにして不安そうな顔で僕を見上げた。 「ご、ごめんなさい、僕、やっぱり迷惑だった?」  しおれた花のように俯くと、食べかけのピザをそっと皿に置く。 「えっ、あっ、い、いや。ま、守はいいんだ、ごめん。お前はここにいていいから」 「で、でも。僕も勝手に押しかけてしまったし」 「あーいいから、気にしないで食べなさい」    やばい。そんな悲しそうな顔しないでくれ。  そもそも僕がこうして踊ったわけはだな。  そんな僕の気持ちを平気な顔で笑いながら瑠璃は言う。 「守は全然気にしないでいいんだよ、だってそもそも隆二さんは~!」 「瑠璃! それ以上言ったら、お前殺す!」 「ひえええええ! はぁい~すみませ~ん!」 「そうだぞ守、お前も気にしないでどんどん食べて飲め!」  海倉達は遠慮なくおつまみや酒を飲んでいた。 「お前らは帰れ!」 「今日はすまなかったね」 「こちらこそ、びっくりさせちゃって」 「ああ、僕もまさか君が来るなんて思わなかったよ」  帰り道、汗が引き、冷たい風が体や頬を吹き抜けて、体が寒くなってきた。  僕は思わず体が震えてしまう。ふいにさりげなく守が開いていたコートのボタンを止めてくれた。  その手にそっと触れると思った以上に冷たくて。僕は自分の手で彼の手を包み込んだ。  あれから僕は慌てて守を追いかけた。  瑠璃親子が退散するにも関わらず、まだしつこく店で飲んでいる監督達を僕は置き去りにした。  店の音楽も相変わらず派手で、近くに寄らないと話もろくにできない。  守に話し掛けたくても僕らの距離は監督達に阻まれた。  酒を持って来いと言いまくる煩い監督に酒を運んでいる途中で、守達は席を立ってしまったから僕は慌ててしまった。  彼らは遠慮がちにもう今日のイベントは終了したからと、遠くでお辞儀をし、手を振った。  僕が引き止める間もないまま瑠璃親子と一緒に守も微笑みながら出て行く。
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