一両目 おばあちゃんのバタークリームケーキ

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たまらずウサミミは曳野に訊いた。 「もしかして当たるまで全国の発車メロディーを聴いてもらうんですか? 一体いくつあるんですか?」 曳野のパソコンには全ての発車メロディーが入っているというのか? 「京浜急行の駅で流れる発車メロディーだけだからそんなに数ないよ」 「京浜急行?」 ウサミミは乗ることがないから知らなかった。 「では日万里ちゃんのおばあちゃんが住む街は京浜急行線沿いにあると? あれって青い電車もあるんですか? 赤い電車のイメージが大きいけど」 「京浜急行といえば赤い電車で有名だが、実は青い電車も「ブルースカイトレイン」として走っている。しかも京浜急行は大半の駅ではモーツァルト、主要21駅では歌謡曲が流れる。だから京浜急行以外にないだろう」 「事務所の呼び鈴と同じですね」 「事務所の音はJR東日本の渋谷駅1番線で流れる「小川のせせらぎ」という曲だけど、これは発車メロディー用に作曲されたものなんだ。たいていの路線はオリジナル曲、ご当地ソングに童謡、民謡が使われる。歌謡曲の採用は珍しいんだよね。一つ一つ聴いていけば聞き覚えのある音楽が出てくるはず。今まで聴かせたのは品川駅『赤い電車』、青物横丁駅『人生いろいろ』、立会川駅『草競馬』…。どれも日万里ちゃんの生まれる前のヒット曲だから題名は分からないだろう」 曳野は引き続き発車メロディーを流した。 “♪タータタタタタタタタタタータ♪” 知った曲があって嬉しくなったウサミミは思わず大きな声でタイトルを叫んだ。 「あ、これ知っている! 世界に一つだけの花!」 「君が答えちゃだめだろ」 「そうでした」 ウサミミは黙って聴くことにした。 なかなか日万里ちゃんに聞き覚えのある音楽が出てこない。
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